ちょっと前になりますが、ARGシンポジウム2009というイベントに行ってきたので、そのまとめを書きます。
イベント概要
次世代エンゲージメント手法として、世界のコミュニケーション産業から注目されるARG(代替現実ゲーミング)。その先駆的な取り組みにより、カンヌ国際広告祭サイバー部門でグランプリを2年連続で獲得した 42 Entertainment のクリエイターを招いて、ARGの有効性と可能性を明らかにします。
- 主催: ユビキタスエンターテインメント手法による事業創造コンソーシアム
- 日時: 2009年10月2日(金) 14:00-17:15
- 会場: 慶應義塾大学三田キャンパス 東館6階 G-SEC ラボ(定員150名)
Introduction 「代替現実ゲームと消費者エンゲージメント(武山政直/慶応義塾大学経済学部教授)」
AR的な体験とは「フィクションセカイへの没入」と言える。昔の例でいえば、「歌舞伎」は舞台装置から客席までトータルな演出空間を作って、その中に客を置くことで「フィクションセカイへの没入」を実現していた。
しかし現代ではユーザに体験を提供するためのはメディアが沢山あるので、それをさまざまな角度から利用することでARGを実現していく。
いわゆる「ARG」という言葉の括りで最初のものとなるのが映画「A.I」で行われたもの。映画のトレーラー内に出るスタッフロールの中に「マシンセラピスト:Jeanine Salla」というのがある。
この「Jeanine Salla」を検索するとある大学の彼女の個人ページにたどりつく。そこには彼女の書いた論文がある(それは、未来の年号で書かれている)。この論文の中に彼女の電話番号があり・・・。
と、いうように限定された謎の情報をもとにそれを解き明かすべく探っていくと、また新たな情報に辿り着く。そうやって、突き詰めていくうちに知らず知らずのうちに映画内のフィクションの情報にリアルに近い形で触れることになる。
これについては下記が詳しい
バンガロア世界大学
その他にも、映画「ロード・オブ・ザ・リング」やドラマ「LOST」、映画「MATRIX」など海外では、割と最近多くARGという手法は取り入れられている。
生活場の話題がメディアに乗るとその話が現実で盛り上がっているように感じる。
一方、仮想セカイの話題がメディアにのるとその話が現実で盛りあがっているかのような代替現実感を感じる。
研究室が手がけた日本でのARGの事例の紹介。「RYOMA the Secret Story」
坂本龍馬の暗殺の秘密に迫る 誘拐事件を追うというもの。
参考:日々是遊戯:本物!? 監視カメラが捉えた、女子大生誘拐の瞬間――ARG再び
登場キャラクターに関係するサークルのサイトなどを研究室で制作
実在のカフェに誘拐の手がかりをおいて、それを取りにいく。内容をユーザーが投稿して、捜査が次のステップに。
ユーザーフォーラムが作成され、その中でさまざまな情報から真相を追究する議論が白熱化
その他にも、福祉、SCR的視点からもアクションを起こしやすいキャンペーン展開として、ARGは期待されている。
ARGによって、ストーリーテリングの手法が下記のように変わった
Keynote 「ARGが拡げる新しいエンターテインメントマーケティング(Alex Lieu/Chief Creative Officer for 42 Entertainment)」
なぜARGを行うのか。それは、「ユーザーに従来と違う体験が提供できる」から、「たくさんのひとを関わり合わせることが出来る」から
42EntertainmentのARG事例
- Ilovebees for halo2
- YEAR ZERO
- 参考:[海外][広告賞]カンヌ2008 サイバーグランプリ YEAR ZERO(広告女史)
- Vista Launchキャンペーン
- 参考:MS、Vistaの販促活動の一環としてARGを活用
WHY SO SERIUS?について
展開するにあたってまず3人のキャラクターに焦点をあてることを考えた。
Harvey Dentは、まず最初にいいイメージを与えることからはじめた。
そのイメージをひっくり返すような仕掛けを展開。
同じサイトのイメージからポスターをジョーカーの顔にしていった。
この変化は、ユーザーがサイトにアクセスしメールを送るとメールが返信され、返信メールに記載されているURLにアクセスするともとのサイトの写真が1ピクセルだけ変わるというもの。
およそ97000ピクセルがわずか数時間で変化した。
ほんの数時間だが、リアルタイムの特別な体験が与えられた。
ニセの1ドル札に落書きして、ワシントンをジョーカー風にしたものを用意。そこにはURLが書いてあり、これをイベント会場のコミックショップのおつりに混ぜてもらった。
コアなファンが一気に集まるリアルな集まりを狙いその場でのキャンペーンを展開。その場でwebに集中的にアクセスさせて、ファン達のアクションに応じたステップで指示を出していく。上空に次にかけるべき電話番号を出したりした。
自分の顔を写真にとってキャンペーンサイトに送ると、gotham city についての新聞をプレゼントした。その中の全ての記事、広告がストーリーにリンクしている。
広告からリンクした商品や企業が映画内にあるもの。各ユーザがそれに関与することで、映画内のストーリーへの参加感を与える。
位置情報が書かれたメモが渡される。「銀行を襲え」というメッセージ。そこにいくとケーキが入った小包がもらえるケーキ屋が。そこで与えられる番号にかけると、ケーキ内のケータイと事件の証拠が見つかる。
このような仕掛けを順序とタイミングを見計らいながら仕掛けていった
映画内の出来事と同じことが起こる体験をさせることで、映画内の出来事を自分が起こしたと言う錯覚を与える
HARVEY DENT webサイト内でオバマ選挙のような展開を実際に行なったかのように見せた。スタッフは各イベント二人程度だが、参加には多数のファンが協力してくれた。参加ファンには特別プレゼントを用意。
道を歩く400人もの人ががHARVEY DENTの選挙活動を実際に目にすることになった。
citizensforbatman.org
バットマンはいいのか悪いのか。
このフォーラム上でユーザー同士の会話を作っていった。友人同士で作品の肝を議論する場を作って、単なるキャンペーンへの参加からエンゲージメントの関係性を構築していった。
- level0 aware
- 一般の人
- level1 casual
- フォーラムやサイトを読むだけの人々
- level2 active
- フォーラムに書き込むなど積極的に参加する人々
- level3 enthusiast
- リアルな行動を起こしてイベントに参加したりする人々
ARGの展開としてはlevel3のみの心を動かすために作っていたので、0から降りる仕組が別に必要だった
インターネットは調べたり、議論する場である。だから、その場をもりあげる仕掛けを作る。
[会場からの質問]制作の総コストは?
- メディアを買うのではなく、24時間リアルタイムに動くためのチームが必要
大体100~150万ドル(30万/1day)
Case Study「ARGを活用した新たなコンテンツビジネス(三原飛雄馬/株式会社メディアファクトリープロデューサー)」
ARGには大きく分けて「広告型ARG」と「商品型ARG」がある。メディアファクトリーでは「商品型ARG」を作っている。
カード×ARG の事例
海外で流行ったものを日本で取り入れた事例は以前にもあった。カードで対戦するゲームが海外で流行った際にはその「新しい遊び」と日本で親しまれている有名なキャラクタと組み合わせることでヒットを作り出した。それが「ポケモンカード」。
ARGの場合も、その「新しい遊び」+「有名キャラクター」という手法を用いた。それが全国規模、数万人が同時に推理、捜査するミステリーゲーム「コナンカード」。
名探偵コナン・カード探偵団
過去の事件を美人開発者が調べてゲーム化するという様子をメルマガで配信。あるとき、彼女の身に異変が・・・。実際にカードのゲームを進めていくと、その事件に関連する情報が。
ダミーの倉庫のサイトのメールフォームから、情報が手に入ったり。
ユーザーは購入したカードの情報をヒントに現実の謎解きをしていく。
書籍×ARG の事例
「サーティナインクルーズ」
世界中に隠された39の謎を解く。スピルバーグが映画権獲得済み。
原作はハリーポッターなどを出版している会社。
一巻ごとに選りすぐりの作家が交代で執筆。
ユーザーは本の中の主人公のライバルとなってwebで謎を解いていく。
映画×ARG の事例
「相棒」スピンオフ映画「鑑識、米沢守の事件簿」
「相棒」のスタッフロールの最後に「米沢知子を検索!」のメッセージ
米沢鑑識官の裏サイトに辿り着くと米沢知子を探すように米沢本人から依頼される。ここから米沢の奥さんを探すゲームがスタート。ユーザーは米沢にサイト上でわかったことを報告しながらゲームを進めていく。
ゲーム×ARG の事例
「レイトン教授と闇のタロット」
- 不思議アイテムを商品化!
- DSではできない謎!
(カードと地図を組み合わせるなど、DSではできない謎解き) - 映画の事件はここから始まる!
まだまだ国内にはARGを作れるクリエイターがいない。そういったパートナーを募集中。
Talk Session 「日本市場におけるARGビジネスの可能性」
前述の3名に加え大橋聡史(株式会社アサツー ディ・ケイ プランナー)、加藤隆生(株式会社SCRAP 代表、くるりARGプロデューサー)が参加
くるりARGについて
初回限定でアルバムに謎の板が封入。
板といろいろなものを合わせると、約15のクエストを解くことができる。
最後のクエストの場所に、2000人ものファンが集まった。
ユーザーとの深いつながりがつくれた。
くるりのメッセージを汲んで、外に出ないと、人と協力しないと、解けない謎を用意した。そのおかげで、アルバムのコンセプトをより深く理解させる体験が作れた。
ARGを成功させるには
エンターテイメントとして、商品型はユーザーになによりも満足を与えること。
ユーザーアクションの循環を生む。そのためには良質なサプライズを提供することが必要。
ARGにおいてイニシアチブを握るのは誰か。
リアルタイムなので、従来のキャンペーンとは一線を画す。リアルな対応な求められる。
配信型のストーリーテリング。
事件を実際に起きたように見せる。
あたらしいストーリーラインをたくさんかいて、映画会社に提供。1000から1500ページ。
ストーリーラインに対して、コンテンツのイニシアチブは制作側が握った。
常にどれが重要で取捨選択してコントロールしていく、特殊技術が必要。
実行するための選抜されたチームが必要。(Alex)
くるりの場合は事前の信頼感もあり、話が通ったというのもある(加藤)
ARGを制作、進行するために必要なスキル、資質
プレイヤーを尊重して、良い体験を与える。オーディエンスとの関係性を意識する。
よく見て、よく聞いて、コミュニケーションをとる。プレイヤーがやりたいことに対して、謎を与えて、一緒にゲームを作りあげていく。
コミュニティのパワーを使って謎を解いていく進行ができないといけない。
どういった役割を持ったスタッフが必要か
コミュニティのエキスパート。オンラインでユーザーのモチベーションをきちんと理解できる人。
仲間として、きちんとコミュニティに参加する人々。
ゲームのデザインができる人。
新たな体験をした場合、どのように動いていくのかを考慮して、いかにものごとを機能させるかを考えられる人。
協力するくらい難しく、誰でもできるくらい簡単なクエストを与えていける人。
インタラクティブに判断して適切な情報提示をする役目が必要。(Alex)
商品型はリアルタイムに更新していくのは大変。その時でないと遊べない。というのでは、まずい。
最初の1、2か月曜チューニングしながら、自動化できるシステムを作り上げて行った(三原)
ユーザーの感情の起伏をみながら、作っていく。だけど、パペットマスターが未熟でも、ユーザーが自分たちで盛り上げていくいくような、オープンソースコミュニティ的な動きもあった。
スタッフの経験から臆病にならず、どんどんトライすべきだとはおもう。(加藤)
日本でのARGで気をつけたいこと
あからさまなウソとわかるようなものは提供しない。たとえ、ユーザーはフィクションだとわかっていても。
それにより、ユーザーはストーリー、ゲームに参加しようと思える
結果をみて、うらやましいなと思わせるものを作る(大橋)
日本はごっこ遊びが10代になくなる。だからこそ、バーチャルな体験を感情移入させることが、日本向き。
自分がキャラクターを演じて没入するのは、日本的ではないかも。(加藤)
日本でももともとARG的体験はあった。だからこそ、これからARGというコンセプトの認知が必要なのではないか。(三原)
提案時にリスクを納得させるには
やっぱりクライアントにこの新しいコンセプトをしっかりと理解させ、説明し、通常の広告コストと比較して説得するスキルを持った人が必要。
次のヒントは?と言われた時に、何も提示できないのは、すごい損。だからこそ、しっかりとしたゴールを提示して、対話をしていくことが重要(Alex)
国によってARGを使い分けるべきか
ユーザーに合わせたチューニングは必ず要る。(三原)
国だけじゃなくあらゆる要素を加味して、オーディエンスに適合させる(加藤)
コンテンツに可変性を持たせるべきか
それ自体がノウハウで、ちゃんと方向転換する必要があり、フィードバックを得る仕組みが必要。コナンはカードでシリアルをつけて、それを登録させて、ユーザーの動向を追った。
それに合わせて、キャンペーンを動的に打っていった。(三原)
それこそ、ARGの利点だからやるべき(加藤)
ユーザーに委ねることの意味が理解できないクライアントだと、可変性以前に実現はしないとおもう
バットマンのプランは最初の案と変わったか。
変わった。
ストーリー、構造、メインポイントを作ってアウトラインを定める。それが、8割。
残りの二割はユーザーが作る余白。そこは可変前提で考えておいて、ユーザーにとって大事なものを作ってもらい、それは積極的に取り入れていった。
それにはしっかりした、基本的枠組みが必要。(Alex)
最後に
日本にたくさんある既存コンテンツを活かしたARGをつくれば、ファンはついてくる。そこにこらから出るクリエイターがうまれれば、いいARGはできるはず(三原)
熱狂をつくりたい。それをたくさんの人に広げるには、ARGはきっと適している。それは、立体的なものの見方を体験として与えてくれる(加藤)
広告ビジネスが崩れた時に、ARG的な枠組みが主導となってくるのじゃないか。(大橋)
会社として、あらたなエンターテイメントとして思っている。テクノロジーの使い方はもっと爆発的な形があるはず。
最初からコアなものをエンターテイメントとして用意すれば、あとは無限の広がりかたがあるはず。
添加剤のように追加できるコンテンツをユーザーに提供したい、そこで生まれる体験が輪になっていけばと思う。(Alex)